又候盗



 劇画「御用牙」(小池一夫=作・神田たけ志=画)の中に、「又候盗」というエピソードがあります。
 ごく微罪で捕らわれた女性が五十回の敲き刑を受け、放免されるや否や無実の罪で再度入牢、百回の重敲き刑を受ける。……という、全編にわたって笞打ちシーンが描かれた作品です。
 敲き刑は、公式には1720年(享保5年)に始まった刑罰ですが、残念ながら女性に対してはおこなわれなかったとされています。しかし、少なくとも津軽藩と相馬藩では女性に敲き刑を科した記録が残されており、この物語の設定もまったくのファンタジーというわけではありません。

 さて、この話で理不尽な目に遭うお常さんに憧れ、敲き刑を受けてみたい!と夢想することン十年。
 ようやく私も、お常さんになることができました。

女囚,敲き,刑罰

 お常は、伝馬町牢屋敷の門前に引き立てられた。
「きょうは何と仰せ付けられたるや」
「敲きを仰せ付けられました」
 三枚並べて敷かれたむしろの上に腹這いにさせられ、四人の下男によって両手両足を押さえつけられる。
 箒尻を手にした打役が歩み寄り、振り上げられた箒尻が肩に振り下ろされた。
「ぎゃあ〜〜っ」
「ひとつっ」
 お常は悲鳴をあげ、数役が冷徹に数える。
 バシッ!!
「あうっ」
「ふたつっ」
 そして、息を整える間もなく、三つ目四つ目の笞が背中を打った。
「ああ〜〜っ!」
 二十回を過ぎると、下腿の尻や太股にも箒尻が打ち下ろされた。
 飛び上がるほどの激痛であったが、押さえつけられた四肢は自由にならず、頬をむしろに擦りつけて痛みをまぎらわせるしかなかった。
「四十一!四十二!」
「ああっ あうっ!!」
 お常は声の限りに泣き叫んだ。視界は涙で曇り、頭の中すべてが痛みに支配されていた。
 ……あと少しで、終わる。あと何回だろう?
 そんな簡単な勘定ができないほど、お常は朦朧としていた。
「四十九、五十!」
 もう、次の笞が襲ってくることはなく、両手足の拘束が解かれるのを感じた。
 お常は息を整え、両腕に力をこめて上体を起こした。

女囚,敲き,刑罰

  *

 敲き刑を受けて放免されたその日のうちに、お常は身に覚えの無い咎で捕らわれてしまった。
 そして百日の入牢を経て、無実の罪で刑に処せられることとなった。
 再犯となる今回は、百回の重敲きが申し渡された。
 二度と御免だと、数ヶ月前に心に誓った厳しい刑罰を、再び受けるのだ。
 二度目だからといって慣れることなどない。前回味わった苦痛をもう一度この身に受けると想像するだにおののく。しかも回数は倍の百である。
「四十四、四十五、四十六っ!」
「あううっ、ぎゃあ〜〜っ!」
 身体はすでに限界であった。
 お常は耐えきれぬ激痛に、四肢を押さえつける下男の手を振りほどく勢いでもがいた。
 声にならない声で、おゆるしください、おまちくださいと唱えたが、打役は正確かつ無慈悲な間隔で箒尻を打ち下ろした。
 半分の五十を数えたところで、一旦休息が与えられる。
 柄杓の水を口に含み、泣き叫び続けて嗄れた喉を潤した。
 そして、お常の本当の地獄はこの後、打役が交替した五十一回目から始まるのであった。

女囚,敲き,刑罰



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